PVアクセスランキング にほんブログ村

改めて常傭(じょうよう)その1

大工さんの日払い賃金のことを一般に「じょうよう」と言われます。
「常用」と表記される方が多いが、辞書で引くと
1 日常使用すること。
2 かなりの日数にわたって、続けて使うこと。
と言うことで意味が合わない。
もう少し調べると、「常用労働者」あるいは「常用雇用」という言葉があるが、いずれも契約社員のことである。
だから、自分は「常傭=常に雇っておくこと。雇いつけていること。また、その雇われる人」と表記するが、
それでも現実とズレがある。
「傭車=自らが所有する車両を使用して、輸送会社から委託された輸送業務を行う運転手」という言葉があるが、
本来の大工さんの常傭は考え方がこれに近い。
仕事に必用な道具と技術を持って日雇い業務をするからである。
だから、「傭工」あるいは「傭大工」とした方が良いかもしれない。
日本でもその昔は、武術と刀を持った「傭兵」も居た。
手ぶら(手ブラではありません)で来て鉄砲を持たせると「足軽」と呼ぶのは、関係があるかもしれない。


大昔の大工工事は、お施主様(当時は「様」を付けて呼ぶことはなかった)は、その名の通り自分の家を作るために
材木屋・大工・左官・屋根工事などにお願いして自らが手掛けて行っていた。
施主はあくまでも施工主である。業界以外の方がほとんどだから建築に関して詳しくない。
だから各業者に色々質問して最善方法を考えたうえで材木を買ってきては職人さんにお願いする。
職人さんの賃金は高いので、建前で技術の要らない釘打ちや真壁工事は身内が協力した。
現在の合掌造りと同じである。
身内の方々は、建前の祝儀と食事以外ほとんど無料奉仕であるが、
お互い明日は我が身の立場であるから、嫌なことも言わずに汗水流した。
それだけに職人さんに支払う賃金は貴重とされていた。
大工さんの賃金だけでなく本来なら棟梁が準備する材木も金物も施主が支払う。
もちろん大工さん以外の職人さんの賃金や材料代も施主が支払う。
だから棟梁は大工工事の責任者と言うだけで、現在の請負ほどの責任はない。
棟梁は大工工事をしていれば日当が頂けるが、段取りに走っていると日当が頂けない。
この穴埋めで、棟梁によって差があったようである。
・大工工事をせずに段取りしている時間も日当請求する人
・紹介した下請け業者から紹介料を頂く人
・値打ちな材木を仕入れて、その差額で利益を得る人
・お手伝いいただく職人さんからピン跳ねする人
これらのことは、悪いことに取られがちであるが、これがなかったら、段取りに走り回っている棟梁は
収入が伴わず、家の棟梁ではなく家庭が投了になってしまう。
10時・3時の休憩も施主が用意するには意味がある。
施主が職人さんに高い賃金を払っているから工事中は声を掛けず、仕事に専念していただき
休憩時間に打ち合わせをする。他の職人さんも一緒にいるから、効率が良い。
昔から「大工は高い」と言われるのは、ここから来ているような気がする。
「道具の腕のうち」という技術がある大工さんをいかにして有効に働いていただくか?
これが当時の施主のやり方である。
明日も一所懸命に働いていただくために、帰りに「ご苦労様でした。」と言ってお土産を渡したり、
「お大工さん」や「ウチに来ている甚五郎」と呼ぶのも、明日以降一生懸命頑張っていただくためのものである。
続く